2015年9月20日日曜日

2015ねん9がつ20にち 焼いてあるよりレアが好き


 今日の絵日記では、食べ物は焼いたほうがいいのか、生のほうがいいのか、という話をします。

 双子の之兄妹のアリエルくんは、むかし生ガキに当たって腹痛を起こしたことがあるそうです。その時に腹痛恐怖症にでもなったのか、それともただの遺伝的な体質なのかわかりませんけど、それからは、食べ物をたべた時にお腹をこわすのが「クセ」みたいになってしまったそうです。とくに、牛乳でお腹をこわしやすい体質らしくて、給食でも牛乳を残すことがあるみたいです。アリエルくんは、お腹がいたい様子をみんなに見せることはないし、表情も変わらないし何も言わないけど、授業中もスッと教室から消えることがあって、みんな何も言わないけど、そういうときは大抵、トイレに行っているみたいです。
 
 ちなみに、ぼくの小学校は、元からある部分と増築された部分に分かれているのですが、旧校舎にはまだ和式便器がのこっています。和式便所はじめじめしていて、いつもがらんどうです。みんな、新築校舎の洋式トイレのほうが好きです。きっとアリエルくんも新校舎のトイレを使ってるだろうな。

 あるとき、みんなが「ふつうのチーズケーキとレアチーズケーキ、どちらが好きか?」と話し合っていたことがあります(ぼくはただ黙って聞いていた)。どうやら、普通のチーズケーキのほうがやや人気のようでした。ところで、ぼくは、何を隠そうレアチーズケーキが大好きです。誕生日のケーキはいつもレアチーズケーキなのです!

 それはともかく、アリエルくんは「レアチーズケーキのほうが好き」と答えていました。「ふうん」とみんな言っていましたが、ぼくは、よく考えていたら、アリエルくんはお腹が弱いから、普通のチーズケーキを食べるべきじゃないのかな?と思いました。

 次に、「生キャラメルとふつうのキャラメルはどちらが好きか」という話になりました。みんな生キャラメルと答えていました。そのあと、「ステーキだったらレアとウェルダンどちらがいいか」という質問にも、アリエルくんは「レア」と答えていました。

 何にせよ、アリエルくんはお腹が弱いにもかかわらず、焼いたものより生もののほうが好きなのだそうです。ふうん。ちゃんと焼いたもののほうが胃腸に良いんじゃないかな?

 その一方で、彼の妹のアリエーヌちゃんは、生よりも、焼いてあるものの方が好きなのだそうです。生ものがニガテで、お刺身が食べられないから、お寿司を食べるときも、かっぱ巻きとか、納豆巻きや、玉子焼きを選ぶのだそうです。ケーキなら、きっとふつうのチーズケーキが好きなのです。アリエルちゃんにしてみれば、食べ物に火を通さないのは、非文明的な行いなのかもしれません。

 人類は火を手に入れることで、自らの身を守り、照明を手に入れ、体を暖め、そして食物に熱を通すことを覚えました。こうしてより多くの食物を、食べやすく安全なかたちで摂取することが可能になり、人類は飛躍的に進歩していったのです。ぼくはこの前、近所の大きな複合公園で、近辺に出土した縄文土器の展示を見ました。縄文土器も、食物をやわらかく煮炊きするための土器であったと知りました。食物の生食は、あるいは人類の進歩と逆行しているのかもしれません。

 でも、私たちが現在、生の食べ物を安全に食べられるのは、食物の生産技術や保存技術、運送技術が発達したおかげだからです。そう考えると、食べ物に火を通すことと、通さないこと、どちらが私たちの正しいあり方なのでしょうか?


 まあいいや。


 おわり。
 

2015年9月13日日曜日

2015ねん9がつ13にち ハシタカくんが氾濫寸前の広瀬川に流される

 
せんじつ、仙台で大雨がありました。特に、9がつ10にちの夜から11にちの朝にかけては雨は激しさをきわめ、仙台市では延べ41万人が避難指示・勧告の対象になったらしいです。テレビではずっと、大雨のニュースをやっていました。ぼくやお父さん、お母さんのスマホには、「ピロピロピロン♫」というイヤなメロディと共に「避難勧告が発令されました」というモノモノしいメッセージが送られてきたりしたので、びくびくしながら夜を過ごしました。

 でも、ぼくは内心とてもうきうきしていて、広瀬川が氾濫したら楽しいだろうな、学校の体育館に避難したらみんなに会えて面白いだろうな、明日学校はきっと休校だろうな、うれしいなー、と考えていました。そう考えているうちに、だんだん眠くなって、けっきょく家で眠ってしまいました。

 次の日おきるとすっかり晴れていました。6時頃に学校から連絡網が回ってきて、3時間目から授業があるよとお母さんが言ったので、なんだかがっかりしました。ニュースでは、茨城の常総市で鬼怒川の氾濫があったということばかりをやっていました。広瀬川はけっきょく、氾濫することはなかったみたいです。お父さんは、鈎取のほうで土砂崩れがあったみたいだと言っていました。

 家から学校までは、歩いて10分くらいです。水たまりばっかりで、ぼくはみんなといっしょに道路を右往左往しながら歩きました。道は、どこかから流されてきた土砂でちょっと埃っぽかったです。道路の側溝の蓋から水が湧き出ているところもありました。途中、坂道の突き当たりのT字路の前を通った時に、水が川みたいに道路をチョロチョロと流れていて面白かったです。

 学校につくと、みんな昨日の大雨の話題で持ちきりで、教室はざわざわしていました。さっきまで学校の体育館に家族で避難していたという女の子や、広瀬川の様子を見に川の近くまで行ったという男の子もいました。先生は、「みんな、昨日大丈夫でした?!ウン、みんな元気そうな顔してるね、安心安心。でもね、安否確認ではうちの学校みんな無事だったけどね、ウン、〇〇中で一人、ちょっと病院運ばれちゃった子がいるみたいなんだけど・・・」誰のことだろう、とぼくは思いました。「わたしも今日学校まで行くのに大変でねー、ウン、途中で土砂崩れあって通行止めになってたからね、迂回路が渋滞してて大変だったよ、ワハハ」と、先生はなぜかニコニコしながら話していました。

 次の日は土曜日だったので、午後にくもんの教室に行くと、頭に包帯を巻いて、左腕にギプスをした満身創痍のハシタカくんがいました。みらい先生は採点机の前で足を組み、つまらなそうな顔をしてPCをいじっていました。ぼくは、きのう先生の言っていた、病院に運ばれた中学生というのは、ハシタカくんのことだったのか、と悟りました。

 みらい先生は採点ペンを手の中でくるくる回しながら、「ハシタカくん、川に流されちゃったんだって。ねー」とハシタカくんにおおきく首をかしげてみせました。ハシタカくんはおませな感じで肩をすくめます。「××くんに話きかせてあげなよ」と先生がハシタカくんに話しかけます。ぼくは、先生がそういう態度で生徒に災難の話をけしかけるのは倫理的にどうなのだろう、と思いましたが、ぼくは真剣な眼差しでハシタカくんを眺めることにしました。

 「右腕空いてるからさ、勉強はできちゃうんだよ、どうせ手首にヒビ入るなら右手がいいよな」とハシタカくんは右肩をグルグル回しながら話しだしました。「あの夜、オヤジがまだ仕事から帰ってきてなかったんだよ。ババアもテレビ見てるしさ。ちょっと川の様子見ようと思って、デジカメ持ってそのまま家飛び出したんだ。雨は思ったより強くなかった。広瀬川に行って自撮りして帰ろうと思って、橋の近くまで行ったらさ、すごい水なの。いつの野球とかサッカーとかしてるところ全部水没してて、『すげーっ』って思って。そんで『ちょっと泳げるかな』と思ったんだ」

 「いや、思わないよ。ふつうは」とぼくはツッコミました。我ながらナイスな合いの手を入れたなと思ってみらい先生をチラッと見ましたが、先生はいつの間にか机にかじりついてPCで何かの作業をしていて、完全に外部とシャットアウトしている感じでした。

 ハシタカくんはニヤリと笑って話をつづけました。「足の甲まで水に浸かって、靴もビショヌレになって。でも『あ、いけるわ』っつって先に進んだんだ。そんで膝くらいまで水が来た時に、遠くで『オオイッやめろッッ!!』ってよくわからん兄ちゃんがすげえ叫んできたんだよ。なんか緑のモヒカンでさ、上半身裸で下もブーメランパンツ一丁の、めっちゃ変態みたいな人だったんだけど。それで『やべっ』って思って陸上がろうとしたら、足にでかい木の漂流物か何がが『ガツッッ』って当たってさ。それで川の中でコケて、でかい波みたいなのが被さってきて、そのままよくわからなくなって、気がついたら病院にいた。生まれて初めて失神したわ。人間ってホントに失神するんだな。モヒカンが救急車呼んだり色々やってくれたらしいんだけど。一歩間違えてたら俺死んでたらしーよ」とハシタカくんはヘラヘラしながら言いました。

 「ホントは『バカッ』って言ってハシタカくんをブッ叩きたいところだけどね」先生が突然口を開きました。「ハシタカくんはわたしの大切な生徒だからしな~い」ぼくも何か言ったほうがいいと思ったので「ハシタカくん、気をつけたほうがいいよ」と言いました。「おっす」とハシタカくんは右手をひらひらさせるだけでした。

 ハシタカくんは左の頬っぺたのあたりも赤く腫れていて、そこを押さえながら「いってー」と言っていました。「そこも流されたときにできたの?」と聞くと、「オヤジにブン殴られた」と言っていました。「母親もなんか変に俺にやさしくなるしさ、オヤジはモヒカンにお礼言ってペコペコ頭下げてるし、おれ両親のあんな姿見たくないわ」とも言っていました。

 ぼくは、親も悲しむから、ハシタカくんはもっと命は大切にしたほうがいいと思いました。


 おわり。