2016年6月12日日曜日

6月12日 グループワーク!(2)

いよいよ、来週は仙台市の神社とお寺の歴史を調べて発表しなければなりません。このまえの総合的な学習の時間は、1~3班の発表でした。でも実は、僕たち5班は何の準備もしていませんでした。前半組の発表を聞きながら、僕たちは「えっおれたちやばくね?」「やばいやばい」「みんな真面目にやってて草不可避ww」と、口々に言いあいました。

これまでの2ヶ月間、ぼくたちは何をしてきたのか?振り返ってみても、ほとんど記憶がありません。たしか、週一の総合の時間に、ぼくは図書室で、歴史のマンガを読んでいた覚えがあります。目黒ちか子ちゃん家のお寺に、お話を聞きに行くという、話がすでに成り立っていたので、「たぶん桃山くんあたりが予約を取って何とかするか、女子たちがサッサと話を聞きに行っているだろう」と思い、ボケっとしていました。

目白くんは、始めからやる気がなく、他の友達とくっちゃべっていました。では桃山くんはというと、実は、図書室の、僕の反対側の席で、マンガを読んでいました。桃山くんはとても落ち着いていたので、「桃山くんには、なにか考えがあるのだろう、じゃあ、僕は口を出さなくてもいいか」と思っていましたが、実は、桃山くんも、何もやっていなかったようです。

女子たちはというと、3人で固まって、ずっとおしゃべりをしていました。といっても発表のことはまるで話さず、プロフを書いて交換したり、ノートにラクガキしたり、だらだらとしていたようです。「やばいねー」とは言っていたようですが、では、なぜ発表の準備を進めよう、という話にならなかったのかというと、その原因は、ちか子ちゃんは、お寺の住職である、お父さんのことが嫌いだからなのです。ちか子ちゃんのお父さんは、結構有名な人です。ぼくも、お母さんからいろんな話を聞きました。

ちか子ちゃんのお父さんは、とても顔が広いです。自分のTwitterとFacebookアカウントを持っていて、自分の活動に関わる情報をたくさん発信しています。必要もないのに、境内に五重塔や枯山水の庭園を増築しているそうです。そのくせ実は、家計は火の車なのだそうです。仙台市長への立候補を狙って、ちか子ちゃんのお兄さんの通う中学校の、PTA会長をしたり、地域の町内会長をしたり、商工会議所に出入りしたり、市内のイベントの実行委員を、たくさん担ったりしていて、当選に向けての足場を固めているのです。仙台の市議会議員や、商工会議所の職員、地元の名士の方々を集めて、意見交換会という名目で、宴会をするのだそうです。

そろそろ、発表の準備をしなければまずいという話になり、昼休みに6人で話し合いをしたとき、目黒さんが話し出しました。「私、日本舞踊やってて」「ちか子ちゃんのお母さん、日本舞踏の先生だもんね」矢板さんが言います。「えっ、知らなかった」ぼくは言いました。「でもね、あれ、オヤジがあたしを出世のダシにしているよーなものでさー」「考えすぎじゃないw」山田さんが笑いながら言います。「大人たちの前で踊ると、みんなすごい喜んでくれて、拍手してくれて、みんないい人たちだし、嬉しいといえば、嬉しいけれど、最近、オヤジが私を、おもてなしのための道具にしてんのかなとか考えるよーになってきて、やだなーと思って。お風呂も一緒に入ろうとするし」

「最後、最後」桃山君がツッコミます。桃山くんは聞きます。「女の子って、ふつう入るの?」「入らない、入らない」矢板さんは言います。山田さんは、「でも、お父さんと入ってる子っているよ」と言います。「わたしは拒否ってるからね」「そのお父さんが、何を考えて入ろうとしているのかによるよ」と僕は言います。「親愛の念の表現というか、ただ、ちか子ちゃんと、純粋に仲良くなりたいからならいいけど」と桃山くんは言います。「やましい気持ちがあったら、逆に覗くだけだろ、だって風呂場で勃っちゃうじゃん」目黒君が混ぜっ返します。「馬鹿」「やめろ」「人様のお父上に対して、一体なんてことを言いだす」「きっと、娘思いのいいお父さんなんだ」

ともかく、このような会話をへて、土曜日に、5班はやっと重い腰を上げて、目黒さんのお寺へインタビューを行うことになりました。目黒さんを通じて、お父さんへのインタビューを取り付けました。午前10時の約束の時間に、僕が目黒さんの家にお伺いすると、石門のところで、目黒さんが立っていました。目黒さんは、石柱に寄りかかって、ピンク色の3DS LLでゲームをしています。

「おはよう・・・他の人たちまだ来てないの」ぼくは目黒さんに聞きました。目黒さんは3DS LLをパタンと閉じて話しました。「うん。今日、父さんは法要でバタバタしてるから、インタビューは母さんがしてくれるって」「ちか子ちゃんは、何のゲームしてたの?」「モンハン」「あっモンハンやってるんだ」「やってる?」「ぼくはやってなくて、でも他の人よくやってるなと思って。ぼくは、『ぼくは航空管制官』っていうのを、最近やっているんだけど」「知らないな」「そっかー」

僕が、目黒さんと1mくらいの距離を置いて、誰か来ないかな、とキョロキョロしていると、山田さんと矢板さんがつれだってやってきました。2人で申し合わせてきたのか、偶然一緒になったのか、不明です。「おはよー」と2人が声を上げると、「おはよー、今日暑い、暑くない?」「暑い暑い」「お寺って、無条件で涼しい気がする」「霊魂的な?」「ウケるw」とゲラゲラ笑いあっています。僕は蚊帳の外です。そのうちに、桃山くんが自転車でやってきました。「目白が遅れるみたいだから、先にお話を伺おう」桃山くんは、目白くんがなんで遅れるかについては話しませんでしたが、たぶん、目白くんはインタビューに行くのがめんどうくさいので、寝坊したとかなんとか、桃山くんに言い訳をしたのだと思います。

目黒さんちの母屋は、お寺の本殿からは20mくらい離れた、旧日本家屋といった風情の、3階建ての家です。なんだか、神聖な場所に入るようで、わくわくします。「おじゃましまーす」と中に入ると、1階の、応接間に案内されました。木の饐えたような、カビくさいような、古い家の匂いがします。でも、案外ふつうの家だし、ふつうの部屋です。ほどなくして、目黒さんのお母さんが出てきました。「はーい、あがってくださーい。暑かったでしょう、でもちか子が外で待ってるっていうから」「おかーさん黙って」目黒さんのお母さんは、日本舞踏の先生をしているけれど、今日は普段着のようです。

このあと、いろんなお話をお母様から伺いましたが、だいたい桃山くんがメモっていたし、ぼくはボケーっとしていて、お話が右耳から左耳へすっぽ抜けていくようなありさまだったので、インタビューの中身は割愛します。

お昼になって、インタビューを終えた僕たちが母屋から出ると、ちょうど住職さん、つまり目黒さんのお父さんが、袈裟を着て境内を歩いているところでした。僕たちは「あっ」と思い、カメラを持っていきていた山田さんは、住職さんの写真を撮りました。『娘の風呂場に入りたがるお父さん』なんて、実際に目の前にすると、そんな考えはスッ飛んでしまうし、顔にも出せません。住職さんは、「今日はインタビューに来てくれて、ありがとうございます」と丁寧に頭を下げてくださいました。とっても礼儀正しくて、感じのいい人に思えました。ちか子ちゃんの様子をみると、すっぱいものでも口に含んだような顔をしていました。もしかしたらそれは照れ隠しで、ちか子ちゃんはお父さんのことが、じつは好きなのかもしれません。

あと、目白くんは結局バッくれました。まあ、やる気が出ないなら、仕方ないと思います。

明日からは、発表の模造紙を、みんなで急いで書かなければなりません。がんばります。



おしまい。

2016年5月29日日曜日

2016年5月1日日曜日

5月1日 こいのぼる

学校と、近所の神社で、こいのぼりがあがっているのを見ました。もうすぐ、こどもの日だからです。

こどもの日というけれど、これまで生きてきた中で、祝日で学校が休みであること以外に、こどものぼくは、得してないです。こいのぼりなんて、別に興味ないし、盛り上がっているのは押し付けがましい大人です。

こいのぼりがあがっている中で、ぼくは他のこどもたちにいじめられたり、からかわれたりしているでしょう。こどもの日なんて、くそくらえです。

大人たちは上から目線だから、子どもが誰一人喜びやしない、こいのぼりなんかをおっ立てて、悦に入っています。

こいのぼりがはためく下で、ぼくはいじめっ子に殴られているのです。

アホくさ。


まあいいや。


おわり。

2016年4月24日日曜日

4月24日 グループワーク!

総合的な学習の時間で、グループワークの課題が出ています。テーマは「仙台市の神社やお寺の歴史を調べてまとめなさい」というやつです。クラスが全部で6つの班に分かれて、調べたことを、もぞう紙一枚にまとめて、2ヶ月後に発表しなければなりません。めんどくさいです。

タニシ先生は、「神主さんや、住職さんにインタビューをしてください。行きたい神社や、お寺を決めたら、ぼくにおしえてちょんまげ。・・・ま、でも、勝手に行っていいよ。君たち6年だから、大丈夫だよね。まあ、わかるよね?ご迷惑だけはかけちゃだけだから。ではがんばって」とだけ言って、教卓の椅子にふんぞり返って昼寝しはじめました。

たぶん、子どもたちが質問にきてくれれば、やっぱり、神主さんとか、住職さんは喜ぶと思うし、たぶん、ネットや本やテレビとかではわからないよーな話を聞けると思いますが、僕は、もともと神社やお寺に興味がないから、あんまりお話を聞きたいと思いません。みんなは、興味があるでしょうか?

まだ席替えをしないで、出席番号順のまま班を組んだので、僕たち5班は、いっつも見知っているようなメンバーになりました。男子は、目白くん、桃山くん、僕。女子は、目黒さん、山田さん、矢板さんです。

僕たちは、机を合わせて、発表の話し合いをすることにしました。桃山くんが、自由帳を取り出して、「じゃあ、作戦会議のメモをするよ」と言って、新しいページに鉛筆で「総合の発表 4/20(水)」と書き込みました。作戦会議と名前をつけて、みんなを盛り上げるところは、桃山くんのすごいところです。でも僕は、なんだかあほらしいな、作戦会議なんていうけれど、僕たちはいったい何と戦っているのかな?と思いました。

目白くんは、腕を組んで、ぼーっとした顔をして、黙っています。目白くんは、運動神経がとてもよくて、5年の冬の陸上大会で、100m走を14秒台で走って、県大会で表彰されたらしいです。あとは、ポケモンなどのゲームに詳しいのですが、グループ活動にはあまり興味がない様子です。

矢板さんも、うつむいて何も話しません。矢板さんはどちらかというとおとなしい子で、いつの間にか学校を早退していたりします。本を読んだりするのが好きらしくて、休み時間には、図書館で見かけることがとても多いです。山田さんと仲が良くて、二人で手紙を交換し合っているみたいです。

僕は、「神社とお寺って、こんがらがってよく分からないから、その違いについて書こうよ」と言いました。それだったら、図書室で、ちゃっちゃと調べ物をすればいいだけだから、楽だと思ったのです。桃山くんは、神社とお寺の違い、とノートにメモをしました。山田さんは、「ちか子のおうちってお寺じゃん。お父さんにインタビューさせてもらえばいいんじゃん!」と言いました。ちか子ちゃんとは、目黒さんの下の名前です。目黒さんは、鼻にしわを寄せて、「あー、あいつか」と言いました。『あいつ』ってお父さんのことなのかな?と僕は思いました。

「エエッ、目黒さんちってお寺なの、知らなかったーっ」桃山くんがカッと目を見開き、おでこに手をやり、椅子からのけぞりながら、叫びました。「万仏寺だよ。だって山田家のお墓そこにあるもん」と山田さんはニコニコしながら答えました。目黒さんは、困ったような顔をして、「話聞けるかどうかは、頼んでみないと、わかんないから・・・」と言いました。歯切れが悪いです。みんなと目線が合いません。

「じゃあもう、発表できたじゃん」目白くんが言いました。矢板さんは、「ちか子ちゃん大丈夫?」と聞いています。桃山くんは「じゃあ、目黒さんのお父さんに話が聞けるかどうか、目黒さん、聞いてもらえる?」「・・・わかった」ちか子ちゃんはちょっとバツが悪そうにうなずきました。山田さんは「わーありがとー!いやだったらごめんね」と話しました。目黒さんはうわの空で「大丈夫だよー」と言いました。桃山くんは、目黒さんのお父さんにインタビュー、とメモしました。

「じゃあ、山田さんと矢板さんは絵がうまいから、イラスト担当だね」と桃山くんは言いました。僕は、ほんとは自分がイラストを描きたいけど、山田さんはマンガを描いたりしていて、絵がうまいキャラだし、実際に絵がうまいので、仕方がないやと思って、黙っていました。「えーっ、あたしやだーっ!」と、山田さんは最悪そうな顔をして答えました。でも本当は嬉しいのです。「一緒にやろー!」と矢板さんと両手の平を合わせて組み、矢板さんは「あはは」と苦笑いしてました。

「じゃあ、おれたちは文章担当で」と、桃山くんは僕と目白くんを見て言いました。僕たちはあいまいに「わかった」と言いました。だいたい話がまとまったので、図書室に行く班もありましたが、僕たちは無駄話をしておわりました。きっと、図書室に行った班は、神社とかお寺に訪問するアテがないから、通りいっぺんの調べ物でお茶を濁そうとしているに決まってます。

それにしても、目黒さんがなんだかきまりが悪そうだったのはなんでだろう?

まあいいや。


おわり。

2016年4月17日日曜日

4月17日 はなちゃんがドッジボールしてた

この前の水曜日にテストがありました。仙台市標準学力検査というものです。午前中の時間を全部使って、国語と算数、理科、社会のテストを解きました。生活のアンケートにも答えました。これで、仙台市内の小中学校の学力などを測るのだそうです。タニシ先生は特に何も言わずにテストを配っていました。

僕は一生懸命テストを解くつもりでしたが、なんだか、集中しなければならない時に限って、どうでもいいことばかりが思いつくのです。リビングのカーテンレースを水で洗ったらどれくらい水が汚くなるんだろうとか、今日は、昨日に比べて何分くらい陽が伸びているんだろうとか、ドクダミ茶を作るときは葉っぱを煮ればいいのか、それとも乾燥させてお茶っぱにしてせんじたほうがいいのか、みたいなことを考えてしまうのです。テストを解くよりも、そういう疑問を解決してみたほうが、よっぽど役に立つんじゃないかな?と考えて、気分は上の空になってしまいます。

僕の学校のテストは、80点くらいが普通です。100点はあまり取ったことがありません。それに比べて、山田くんはとても成績がよいです。100点とか、95点ばかりを取っているようです。田山くんは、あまり成績は良くないようです。この前返されたテストを折り紙して紙コップを作り、これを採尿に使おうと言って、みんな笑っていました。実は、僕もちょっと笑ってしまいました。

タニシ先生はテストを返すとき、それがよい成績だと、結構人前でそれをほめます。フィードバックが大事だというのです。つまり、成績のよい生徒のことをほめれば、その生徒は嬉しくなるので、点数がもっと伸びていくのです。たしかに、タニシ先生の言っていることは正しいかもしれませんが、やり方が良くないと思います。誰かがよい成績を取っていると、「ぼくはこの生徒を認めているよ」というふうに、おうような顔をして、「よくできたね」と生徒にテストを渡すのです。でも、点数が良くない生徒には、ちょっと難しい顔をして、テストを手渡すのです。テストの良くない生徒はかわいそうですよね。でも、自分も、もっと勉強を頑張ろうと思ってしまうし、やっぱり嫌だけど、タニシ先生は正しいのかもしれません。

ところで、テストが終わって昼休みに、はなちゃんが校庭でドッジボールをしているのを見つけました。1組と2組合同の女子が中心となっていたので、仲間には入りませんでした。はなちゃんは誰かれ構わず、アサシンの顔をして全力でボールをぶつけます。かわいかったので、校庭を歩きながらずっと一人で見ていたら、後ろから肩を叩かれて、誰かと思って後ろを振り返ったら桃山くんでした。桃山くんはにやにや人懐っこく笑って、「ニシザワハナのこと好きでしょ」と言いました。

バレたか。心臓が止まるかと思いました。

まあいいか。


おわり。

2016年4月10日日曜日

4月10日 タニシ先生の自撮り棒で集合写真を撮る

この前の金曜日に始業式がありました。その日は晴れで、ぼくはウキウキしながら学校に行きました。これから入学式に出るのでしょう、小さな体にブレザーを着てランドセルを背負って、おめかしした両親と歩いていく新1年生をたくさん見かけました。こうやって新しい子どもたちが学校に入学していくのかと考えると、なんだか不思議な気持ちです。自分もずっと昔はこのようにして両親と歩いていたのかなと思ったけれど、詳しくはもう覚えてもいません。

ちょうど桜が満開で、ぼくはその花びらを掴んだり、口の中に入れたりしながらいつも通りの時間に校門をくぐりました。夏休みに比べると休みの期間は短いので、そんなに懐かしい感じはしませんが、校舎の中は新しい学年になって浮足立った生徒たちでなんだかわくわくする気がします。

6年生になったら教室も変わります。ちょうど昇降口の所で知り合いの1組の戸塚くんに出くわしたので、いつもだったらあまり話さないかもしれないけれど、やっぱり新学期初日ということもあって何が起きるかわからないので、春休み中にしたことを話しながら、6年生の教室のところまで行きました。戸塚くんは家族でTDLに行ったらしく、ランドセルのホルダーにドナルドダックのキーホルダーをつけていました。

まず、戸塚くんが6年1組の教室の扉の前に貼り出してある、クラス名簿と席順の書いてあるプリントを見たので、ぼくは後ろでずっと見ていると、戸塚くんは笑いながら「アッあった」と言って、そのままヒラヒラ手を振りながら教室へ消えていったので、ぼくも「ばいばい」と手を振って別れました。1組の教室は、全然普段関わらない人たちばかりなので、クラス替えというか、メンバー替えはほとんどないんだなと思いました。

次に、ぼくは6年2組の扉の前に行きました。クラス名簿を見ると、出席番号順に生徒の名前がのっていて、ぼくの名前もありました。やっぱり、クラスのメンバーは5年生の頃から変わっていないようです。座席は、年度はじめなのでちゃんと出席番号順に並んでいます。後ろから教室に入ると、中にはもう半分くらいのクラスメイトがいます。みんな、他の友達と話したり、席に座ってノートや本を開いていたり、後ろのロッカーにみんなで座っていたり、机にうつぶせて寝ていたりと、様々です。

前には桃山くんがいます。桃山くんは後ろの学級図書にある本を読んでいました。井伏鱒二の『黒い雨』です。ぼくもちらっと読んだことがあります。桃山くんのつむじのあたりをボーッと眺めていると、やがて前の扉から、のそっとタニシ先生が入ってきました。みんなちょっと静かになって、ロッカーで喋っていた人たちも席に戻ったみたいです。

「あー、いいよ今日は礼とかは。めんどくさいからね。ところで、桜満開だよね。きれいだなー。私も通勤中、車を運転しながらそっちに目がいっちゃってね、危うく路肩にはみ出して新入生ひいちゃうんじゃないかって、あはは。みんな、未来への希望にあふれてるかな?それとも、新学期が始まっちゃってゆううつかな?クラス替えがないからね、あまり実感はないかもだけど、私達は最高学年です。下級生のお手本になるように胸張っていこー」

みんな「はあーい」と気乗りのしないような返事をしました。そのあとタニシ先生は今日の予定や、細かな連絡をしたあと、1時間目は大掃除の時間で、ぼくは廊下に乾雑巾をかけたりしました。2時間目は学活で、6年生になって使う教科書が配られて名前を書いたり、身長にあわない椅子や机を交換したり、ロッカーに自分の名前を書いたりしました。3時間目は学年集会です。体育館で、校長先生のお話を聞いたりしました。1組担任の西山先生も何か話していました。

そして今日は終わりです。帰りの会が終わってみんながランドセルを背負い出してから、タニシ先生が、「ところで記念撮影しよう」といって、バックから取り出した棒の先に自分のスマホを取り付けました。「自撮り棒だ」とみんなはちょっとザワザワしました。ぼくは、学校のカメラじゃなくて自分の私物で写真撮るのは公私混同じゃないかな?と思いました。でも、わぁー、といった感じで、みんなはタニシ先生のそばに集まります。女子が多いようです。

ぼくがはたから見ていると、なんと、ぼくの好きなはなちゃんもタニシ先生の横にくっついているではありませんか!楽しそうに笑っています。いけないと思って、ぼくも後ろの方から先生に近寄りました。「そんなに全員は撮れないよ〜」と言って、タニシ先生は手を目一杯伸ばして、写真を撮ろうとしました。その時、タニシ先生の後ろにいた女子が、「シャシャが写真に入らなそうだから、前に出るから待って」と言いました。タニシ先生は振り向きました。

その子は身体の小さな子で、佐々山さんと言います。佐々山さんが出てくる間、みんなは黙りこくっていました。ぼくは、その瞬間がとてもイヤでした。例えば、もしも佐々山さんがもたついてずっと出てこられなかったら、きっと誰かが「はやくしろよ」と声を上げるかもしれないのです。それが起きる可能性があるのが、なんだかジゴクへの扉が開いたみたいに思えたのです。

佐々山さんはすぐにひょこっと出てきました。タニシ先生は、「じゃ、はいチーズ」と言って写真を3枚撮りました。3枚目はみんなで変顔をしました。楽しくてけらけら笑いあいました。

よかったよかった。


おしまい。

2016年4月3日日曜日

2016年4月3日 ソメイヨシノとはなちゃん

春休みに入ってだいぶ時間がたちました。この前の金曜日に修了式がありました。それからは、いつも通り公文の教室があって、あとは家で遊んだり、外に遊びに行ったりしています。家ではゲームをしているか、テレビを見ているか、マンガを読んでいるかパソコンをしているか、本を読んでいたりします。毎日ぼけーっとしています。

一度、自転車で広瀬川をたどって、海の方まで行ってみようと思いました。でも、外に出たのが夕方の3時くらいだったので、長町を越えて、ビルがたくさん建っているのを眺めながら河川敷をずっと走っていると、名取川と広瀬川が合流するあたりで5時くらいになってしまったので、その合流しているところを観察してから家に帰りました。

いつの間にか、4月になってしまいました。新年度に変わって、ぼくは小学6年生になりました。小学校最後の学年です。考えてみると、小学校1~3年の頃に比べると、時間のたちかたが早くなったような気がします。なにか、年をとるごとに時間の流れが早く感じるという法則を聞いたことがありますが、くわしくは忘れました。

エイプリルフールの日についたウソは、会社でお仕事をしているお父さんに電話をかけて、「家が燃えた」「ええっ」「ごめん、エイプリルフール」「俺の仕事中にそんなことで電話をかけるな」と話したくらいです。

そういえば、昨日近所の文房具屋で両面テープとかを買った帰りに、ペンギン駅前でクラスのはなちゃんが、両親の人と自転車をこいでいるところを見かけました。はなちゃんは、実は僕が好きな女の子です。これまで○○ちゃんと書いていましたが、本当ははなちゃんなのです。

はなちゃんの家は三姉妹で、はなちゃんは次女なんだそうです。髪がとても長くて、腰の上くらいまであります。小学3年生の頃から伸ばし続けていると聞いたことがあります。なんでそんなに長い髪がいいのかはわかりません。はなちゃんのお姉ちゃんが髪で遊ぶことがあるらしく、はなちゃんは髪に時々編み込みをしてみたり、ヘアアクセサリーをして学校に来ては、他の女子たちに「かわいー、かわいー」と言われています。

ちょうど仙台は、やっと桜前線が北上してきていて、駅前のロータリーに何本か植えられているソメイヨシノも花をつけていました。はなちゃんが向こうから自転車に乗ってやってくるのを見つけると、僕の心臓は急に、水風船がハレツするみたいに動き出して、心拍数が3倍くらいになりました。

はなちゃんの後ろにはお父さんとお母さんらしい人が、はなちゃんと一緒に自転車をこいでいました。なんとなく僕はうれしくなりました。僕が勇気を出して「はなちゃん」と声をかけると、はなちゃんは目を丸くして口を開けて、驚いたみたいな顔で「けりもくん」と言いました。そのままはなちゃんは僕を通り過ぎて行きました。

そのあと角を曲がるまでに、はなちゃんは2、3度振り返ったので、僕は立ち止まって手を振りました。風が強く吹いて、桜の花びらがひとひら舞いました。ご両親がはなちゃんに何か話しかけているのが見えました。もしかしたら、ちょっとからかい気味に、今の男の子は誰なんだと聞いているのかもしれません。そう想像すると、ぼくはなんだか嬉しい気持ちがしました。

でも、もしかしたら、あまり後ろを振り向いて自転車でコケたら危ないから、はなちゃんに前を向けと注意していただけかもしれません。たぶん、はなちゃんは髪が長いので、振り返ると髪の毛が目のあたりにまとわりついてしまい、視界がふさがれて危険なのです。

どちらが正解なんだろう? 

まあいいや。


おわり。  

2016年3月13日日曜日

2016年3月13日 西山先生について

今週は、6年生たちの保護者発表会がありました。1組・2組合同です。ぼくは2組ですが、ぼくのグループはフラフープに飾りをたくさんつけたもので曲芸をひろうしました。反応は普通でした。

 ところで、この前もアリエーヌちゃんとアリエルくんと帰り道が一緒になりました。1組のアリエーヌちゃんが、担任の西山先生について、こんな風に話していました。

「西山先生、一回教室から出てったんだよ。知ってた?」
  「知らない」とアリエルくんは言いました。ぼくも首を振りました。アリエーヌちゃんはわざとらしく声を抑えて続けます。

  「算数の授業のときに、男子たちが西山先生のことイジめてて、黒板に文字書いてるときに「西山ーっ」「葬式ですかーっ」「やば(笑)」「喪中?喪中?年賀状出してないでしょ?」って、声かけるんだよ。でも、前を向くと、みんな静かになるの。先生は無視してるんだけど、鼻とか目とか赤くなってて、ちょっとキョドキョドしてて。先生ちょっとかよわい感じだからかな、男子たち調子に乗っちゃって、背中に消しカスとかクリップとか投げるの。他の子も、笑ってるし。それで、ある男子が「ブス」って言ったのがすごいムカついたっぽくて、振り向いて早口で「外様くん、昼休みお話があるから」ってだけ言うの。

   でも外様くんが「は?俺?俺なんかした?」って言い出して。確かに外様くんは西山先生のことをすごいイジめてたんだけど、「でもブスって言ったのは違くね?譜代じゃね?」ってみんなに聞いてみるんだよね、譜代くんは「いや、てかそもそも始めたのお前じゃね(笑)」「は、まじ西山意味わかんねーんだけど、死ね」って言ったら、

  「そんなこと言ったらダメでしょ!!!」って西山先生すごい怒り出して、でもそれって、ちょっとズレてるよね、怒り方が。そのまま先生黒板に自習って書いて、教材胸に抱えて出てっちゃた。

 「それでどうなったの?」とアリエルくんは聞きました。
 「学級委員が謝りに言って、次の授業に普通の顔して戻ってきた。男子たちはさすが静かになってた」
 「ふーん」とぼくは言いました。
 「次の日は明るい服装になってたな、わかりやすいね」
 そんなものかな、とぼくは思いました。

 西山先生はふわふわした印象の先生だけど、実は怒ったりするんだなあと思いました。西山先生の怒ったところってどんな感じなんだろう?見たいような気がするけど、あまり見たくない気もします。

 まあいいか。


 おわり。


2016年2月28日日曜日

2016年2月28日 ハシタカくんはYoutuber?!


くもんの教室の先輩で、同じ学区の中学校の1年生であるハシタカくんは、時々Youtubeに動画を投稿しているそうです。でもハシタカくんは、くもんの先生にはそのことをナイショにしているそうです。ぼくと二人きりになると、よく動画のことを話してくれます。 
 ハシタカくんはこのように言います。
「いま、学校で動画有名になっちゃってさ、ソフトテニス部の先輩にもめっちゃホメられてさ、今度俺のこと撮影してくれって頼まれてんだよ」
「僕もその動画見たいよ」
「いいからいいから、そんな見るもんじゃないし、恥ずかしいし」
 ハシタカくんは手をひらひらさせて、謙遜するように、いたずらっぽい笑顔を見せます。
 この前、4時前にくもんの教室に行ったら、ハシタカくんが教室の前で腕組みをして待ち構えていました。右手の人差し指にデジカメの紐をぶら下げています。「ちょっと動画撮るから、カメラマンしてくれない?」
 ぼくは、ハシタカくんに協力できるのが嬉しかったので、「いいよ」と言いました。ハシタカくんは「きみは素晴らしい」といって、ポケットから取り出したどんぐりガムを1つ僕にくれました。
 ハシタカくんは、ぼくを近所の公園に連れて行きました。それは、くもんの教室から30メートルくらいしか離れていない小さな公園で、Googleマップで調べると「ラムサール第三公園」という名前です。
 その公園では、一人の男子が、ブランコで立ちこぎをしていました。髪が長くて、目が隠れており、全身黒いジャージを着ていました。ハシタカくんが「うっす」というと、その男子も「おう」と言って、ブランコからジャンプして飛び出ました。
 その男子はそのまま、ブランコの周りを囲んでいる手すりにぶつかりました。「ゴン」と金属の震える音がしました。男子は右足のスネを押さえて地面にうずくまり、黙ってゴロゴロとのたうち回りました。
 ぼくは「あっ」と思いましたが、知り合いでもなんでもないので、どうしたらいいかわからず、ハシタカくんが呆然と目を見開いているのを眺めていました。ハシタカくんは「アクシデント、やばいやばい」と言って、「カタハシ大丈夫か」と男子に駆け寄りました。その男子はカタハシというようでした。
 カタハシくんは歯を食いしばって、「フー、フー」と息を漏らしていました。ちょっと涙を流しているようです。ハシタカくんは「やばい、骨が折れてる」と、顔面蒼白になりながらつぶやき、ぼくに「カメラ回して、カメラ」と言いました。ぼくは、カメラのカバーを取り外しましたが、録画の仕方がわかりません。
「録画ってどうすればいいの」
「ちょっと貸して」
 ハシタカくんはカメラをひったくって何かの操作をして、ぼくにそれを手渡しました。ぼくはカメラを構えました。RECボタンがONになっています。ハシタカくんがしゃべり始めました。
 「カタハシ大丈夫か、カタハシっ」
 カタハシくんのジャージは、公園の砂にまみれて茶色になっています。涙のあとに砂がついて、目のあたりは黒く汚れています。カタハシくんは声を絞り出すようにして、「まじちょっと待って……」とつぶやきました。
 ハシタカくんはカタハシくんのそばに片膝立ちしながら、「ちょっと今、えー、カタハシが負傷しました」と、カメラ目線で、リポーター口調に叫びます。ぼくはそれがおかしくて、つい「ぶっ」と吹き出してしまいました。
 「おいちょっとオマエ笑うなし」とハシタカくんはキレ始めました。「ごめん」とぼくは真面目な顔をしました。カタハシくんは相変わらず右足を押さえながら、「おい、ハシタカ、やめろって、カメラ止めて」と、余裕がなさそうにつぶやきます。
 ハシタカくんは「これスクープだから」と言って、「おい、カメラ止めるなよ」とぼくに叫びました。「おいっ、カタハシ大丈夫かっ」「いまそんな気分じゃないから」「傷見せてみろ」「やめてって、傷とかないから、打撲だから」「救急車、救急車」
 「だまれ」と言って、カタハシくんは横に寝転がりながら、ハシタカくんの左足を強く蹴りました。ハシタカくんは「痛った」と尻餅をつきました。
 「撮るなっつってんじゃん。オマエ人の気持ちわかんないわけ」とカタハシくんはハシタカくんをにらみました。ハシタカくんは「オマエの気持ちってなんだよ」と言って、コブシでカタハシくんの右スネを小突きました。
 「テメェこの野郎」ついにハシタカくんとカタハシくんは取っ組み合いのケンカを始めてしまいました。ぼくはやばいと思い、カメラを地面に置いて二人に駆け寄りました。
 二人は無言で取っ組み合い、お互いの顔に「ブーッ、ブーッ」と唾をかけあっていました。「汚いからやめて!」と僕は二人を引き離そうとしましたが、メガネにまで唾のかかってレンズを白くくもらせたハシタカくんは、「うるせえ」と僕にも唾を吐き掛けました。
 「うわっ」と言って、僕は公園の水道に顔を洗いに行きました。二人はケンカをやめ、二人で地面にあぐらをかきながら、お互いの顔は見ず、ハアハアと息を吐いていました。ハシタカくんは泣いているみたいで、鼻を真っ赤にして、鼻水をすすっていました。
 僕はくもんに行かなければならないことを思い出しました。カメラを地面から拾って電源を切り、ポケットに入れていたカバーに戻し、ハシタカくんに手渡そうとしました。でも、ハシタカくんは泣いているので、そのそばにカメラをそっと置きました。僕はそのまま教室に行きました。
 時間は4時すぎになっていました。みらい先生は答案の丸付けをしながら、「遅いね」と面白くもなさそうにつぶやきました。ぼくは「ごめんなさい」と頭を下げてから、ハシタカくんの名前を出すのはまずいかなと思ったので、「ちょっと友だちと遊んでて」と言いました。先生は「ふーん」と言いました。怒ってはいなさそうだったので、よかったと思いました。
 その日の6時前に、ハシタカくんがやってきました。みらい先生のくもんの教室は、3時から6時が幼稚園・小学生の時間、7時から10時が中高生の時間と決まっています。でも、ハシタカくんは早めに教室に来ることが多いのです。
 ハシタカくんは、服に少し土ぼこりが付いていましたが、ケロっとした顔をしていました。ぼくは、ハシタカくんにどんな顔を向ければいいかわかりませんでした。先生に答案を提出したあとに、ハシタカくんの座る席に言って、「大丈夫だった?」と小声で聞きました。ハシタカくんも小声で、「大丈夫、ありがと」と言って、右手でぼくの肩を叩きました。ハシタカくんは笑っていましたが、目はまだ赤らんでいるみたいで、かわいそうだなと思いました。 
 でも、あれからどうなるか気になったので「今度動画見せて」と言ってみました。ハシタカくんは「やだ」と言いました。「でもカメラマンしたじゃん」というと、「あとでどんぐりガム3個あげるから」と言うので、僕は「約束だよ」と言いました。
 でも、本当は動画を見てみたいなと思ったので、あとでYoutubeでハシタカくんの動画を探してみました。試しにハシタカくんの本名で検索をかけてみると、なんと、ハシタカくんの本名そのままのYoutubeアカウントを発見してしまいました!なんだか、見ちゃいけないものを見つけてしまった気になりました。
 ハシタカくんのアカウントには、10個くらいの動画がアップロードされていました。『【閲覧注意】カマキリのメスの腹を切り裂いてみた!【グロ注意】』(視聴回数314、高評価1、低評価2)とか『私の恋愛遍歴~小学校1年から小学校3年編』(視聴回数421、高評価3、低評価0、コメント3)、『「バケモノの子」感想【細田守はジブリ超え】』(サムネイル画像はバケモノの子パンフレット、視聴回数513、高評価3、低評価0、コメント数3)などがありました。アカウントのチャンネル登録者数は11でした。
 ハシタカくんは本当に動画をアップロードしているのです!しかも、視聴回数もかなりあるのです!なんだか、くもんの教室で見せるハシタカくんのイメージが崩れてしまうのが怖かったので、僕は動画は見ませんでしたし、ハシタカくんに話してしまうつもりもありませんが、ハシタカくんはすごいなと思いました。
 でも、今回撮影しようとしたビデオが何なのかは、よくわかりませんでした。ぼくが撮った動画も見つけられませんでした。もしかしたら、対談の形式で、恋愛遍歴の小学4年生~小学6年生編を作ろうとしていたのかもしれません。
 ハシタカくんには才能があるなと思いましたが、でも、同時になんか悔しいなと思い、胸が痛みました。

 まあいいや。


 おわり。
 

2016年2月21日日曜日

2016年2月21日 アリエルくんとアリエーヌちゃんの帰り道


  この前、学校の帰り道にアリエルくんとアリエーヌちゃんと一緒になりました。いつも一緒に帰ることはありませんが、今日みたいに偶然会うと、なんとなく二人で帰るみたいです。
 アリエルくんは、緑色のランドセルの上に、薄緑色のナップザックを背負っています。中には体操服が入っています。また、今週給食当番で、今日は金曜日だったので、今、アリエルくんの右腕には、給食着袋の細いひもがにぎられています。一方アリエーヌちゃんは、ピンク色のランドセルを背負って、右手には四角い手提げ鞄を持っています。そのバックからは、リコーダーが飛び出しているのが見えます。高学年になると、リコーダーはあまり使いませんが、アリエーヌちゃんはたぶん、3学期の終わりに行われる、学校の保護者発表会の出し物で、リコーダーを使うのかもしれません。
 アリエーヌちゃんの頭の中には、いつも他人への不満がうずまいているようです。ぼくは、二人の会話を聞いていました。
「うちのクラスの女子はファッションに関心のない子多すぎ。他の子が何で判断されるのかって見た目じゃん。髪の毛とかボサボサなの理解できない。」
  「うん」
  「あと男子はバカ多すぎ。先生はいつもニコニコしてるだけで不良の子とかぜんぜんしれないからクラス学級崩壊ぎみだし、ほんとあんなこと通うのやだ」
 「ふうん」
  アリエーヌちゃんの担任は若い女の先生で、全校集会とか学校の行事とかで会います。背が高くて、痩せていて、いつも黒い服を着ています。ちょっと神経質そうで、でも穏やかで優しそうです。アリエーヌちゃんがその先生の悪口を言うので、びっくりしました。
  アリエルくんはただアリエーヌちゃんの話にうんうん頷いています。でも、あまりアリエーヌちゃんの話に興味がありそうではありません。
 「見て見て、ミサンガ」アリエーヌちゃんはぼくに左の手首を突き出しました。青や、赤や緑のカラフルなミサンガが、5本ぐらいグルグルと付けられています。すごい量です。「どう?」
 「すっげー。ぜんぶ、違うお願いごとをかけてるの?それとも、1つの強いお願いごとがあるの?」
 「違う願い事かけてるよ」アリエルくんが代わりに答えました。「絶対多すぎだよ」
 「アリエル関係ないじゃん」と、アリエーヌちゃんはアリエルくんをにらみつけました。本人は、目の前で青から赤に変わる歩道の信号を見つめています。
 「家でも仲いいんだろうね」
 「えっ、ありえない」アリエーヌちゃんはすぐに首を振りました。アリエルくんはうつむいて黙っています。その時、後ろからアリエーヌちゃんの友達たちがやってきました。「エーヌちゃん♡」「あっチホちゃん♡」アリエーヌちゃんはぼくたちには何も言わずそのままグループに入り、信号は渡らず話しながらどこかへ行ってしまいました。
 ぼくとアリエル君二人だけになりました。信号が青に変わったので歩き始めました。あまり話すこともありません。
 「アリエーヌちゃんは家でもおしゃべりなの?」
 「あいつ外だとテンション高い」とアリエルくんは言いました。「マンガ読んだりゲームしたりしてる、普通だよ」
 「ふうん」そういうものなのかなと思いました。
 しばらく進むとイルカ公園の前でアリエルくんが、「ここで曲がる」というので、「じゃあバイバイ」といって別れました。
 二人が家の中で一体どんな感じなのか、あまり想像がつきませんでした。

 まあいいか。


 おわり。
 
 

2016年2月14日日曜日

2016年2月14日 ところでブラックデーをご存知ですか。

    今日はバレンタイデーです。でも日曜日なので、学校でチョコが出回るのは明日になるでしょう。でも、この前の金曜日にも、チョコを配っている女子はいたりしました。

 ぼくはチョコを3つもらいました。まず今日、おかあさんから1つ、神奈川に住むおばあちゃんから宅配便で送られてきたのが1つ、木曜日にくもんの先生から生徒全員に配られたチョコが1つです。

 ところで、ぼくには好きな女の子がいます。名前は恥ずかしいので言えません。〇〇ちゃん、つまりまるちゃんと呼びましょう。まるまるちゃんは金曜日の朝から、友達と友チョコをたくさん交換しあっていました。ぼくはそれを横目で見つつ、まるまるちゃんがこっちに来ないかなと期待していたのです。

 でもまるちゃんは他の男の子にチョコあげたみたいです。その男の子は山形くんと言って、サッカーがうまくて背が高くて、頭が良くて話しがうまくて、人気者なのです。田山くんや山田くんとも仲がいいのです。義理チョコらしいのですが、ぼくはショックでした。ちょっと安易すぎるんじゃないかなと思いました。

 でも、あとで風の噂に聞いた話だと、まるまるちゃんは他に、なんだか他の学校の幼馴染の男の子に本命のチョコをあげるんだと聞きました。まるまるちゃんは安易じゃなかったんだ。やられたな、とぼくは思いました。

 それにしても、バレンタインデーなんて、外国の習慣なのに、みんなこぞって浮かれちゃって、ちょっと単純すぎるんじゃないかなともぼくは思いました。

 でも、それはぼくが本命チョコをもらっていないのがいけないのであり、もしももらったら、バレンタインデーは最高という感じになるでしょう。

 ところで、この前の木曜日にくもんの先生が言っていたのには、韓国も、バレンタインデーは女の人が男の人にチョコを贈る日なのですが、韓国には、バレンタインデーやホワイトデーに縁のなかった人たちが、4月14日にみんなでジャージャー麺を食べたり、ブラックコーヒーを飲んだりする、「ブラックデー」という日があるんだそうです。くもんの先生は、私は今配ったから縁あるけどねと言ってケラケラ笑っていました。

 ブラックデーが日本で流行ったら面白そうだな。


 おわり。

2016年2月7日日曜日

2016年2月7日 最後は女子と過ごしたい?


この前の話です。その日は雪がちらほらと降っていて、積雪もあり、くもりでした。僕は、いつものように学校に行きました。3時間目の授業は体育でした。ぼくは、体操着に着替えて、赤白帽をかぶって、友達と一緒に体育館に行きました。
 体育館は、とても壁が薄いです。穴が開いてしまいそうなほどだと思います。体育館は、なんだが木材と汗の混じったような、すえた臭いがします。
ふと、体育館が洪水で水に流されたらどうなるのかな?と思いました。多分、体育館は軽いので、水に浮くと思います。確か、この体育館は、学校の校舎を増築した際に、下に車輪を付けられて移動したとどこかで読んだ覚えがあります。体育館が水に流されてしまったという事件はこれまで聞いた事がありませんが、それはきっとこれまでに起きた洪水や、堤防の決壊などの度合いがそれほど大きくなかったからだと思います。
 でも、津波の時に、体育館は果たして流されたのでしょうか。よくテレビなどで、家が流されている、ひどい様子を見たことがあります。だったら、体育館も同じように、プカプカ水に浮いていても、おかしくはないのではないでしょうか。
 実際に調べてみると、あまりそういうことはないみたいでした。でも、きっと条件が重なれば、体育館は浮くのではないでしょうか。まず、体育館は、他の部分と繋がっていてはいけません。コンクリートで通路とかとつながっていたり、あとは基盤の部分が地面と固定されていたりすると、体育館は浮かないでしょう。また、体育館の扉や窓は締め切って、隙間をガムテープなどで閉じるなどして、水の入ってこないようにする必要があるでしょう。こうすることで、体育館は水に浮かぶはずです。
 体育館に、僕たち1クラスぶんがまるまる取り残されたまま漂流してしまったら、一体どうなるだろうと考えました。まず、仲のよい人同士が固まって、それぞれに基地のようなものを作るでしょう。多分、暖房やマットの奪い合いになると思います。タニシ先生はみんなを束ねようとしますが、たぶん女子にキモいといわれて、しょうがないので良い子の多いおとなしめの男子のグループに入りつつ、みんなのことを見守るでしょう。
 そのあとは、飢えとの戦いになるでしょう。男子たちは気が立ち、お互いに陣地を主張して争いはじめます。多分、クラスの体育に強い男子と、きゃぴきゃぴとした女子たちがつるんで、リーダー的な権力を振るい、バスケなどをして遊ぶとともに、用具室などの、居心地の良い場所を占領するでしょう。どちらかというとおとなしい男子たちと女子たちは、それぞれ独立を保ち、ステージ裏や、2階の通路などにそれぞれの居場所を作り、おしゃべりなどをしているでしょう。
 しかし、だんだん寒さや飢えが厳しくなってくると、みんな遊んだりする元気が無くなってきて、最後には、全員が用具室で縮こまって、暖房にあたりながら、静かに最後の時を待つのではないでしょうか。
  そこまで考えましたが、あまり考えても仕方がないので、もうやめることにします。
でも、もし本当に死んでしまうのだとしたら、やっぱりぼくは、好きな女子と一緒にすごいしたいなと思います。みんな、そう思うのではないでしょうか。そんなこともないのかな。

 まあいいや。


 おわり。

2016年1月31日日曜日

2016年1月31日 雪に仰向けになる

 いまのぼくの机は、教室のいちばん右の列の2番目です。すぐ目の前に石油ストーブがあって、顔がほてって頭がぼーっとして、勉強に集中できない気がします。そういうときは、水道の水で顔をバシャバシャ洗うと、なんとなく目がさめるような気がします。顔をふく時は服でふきます。本当は、お母さんが用意してくれるハンカチを使わなければいけませんが、めんどくさいのでほとんど使ったことがありません。

 学校の冬の水道の水はすごく冷たいです。ちょっと水に触れるだけで、手が冷えて真っ赤になります。その、ものすごく冷えた手を自分の服の中に突っ込むと、自分の体なのに手がほかの人のものみたいに冷たく感じられます。またその手のほうは、じわーっと血が上ってくるみたいにあったかくなるような感じがして、面白いのでよくやります。

 最近はよく雪が降ります。「今年は暖冬だから全然雪降らないかもね」とお父さんは言っていましたが、ちゃんと降ったので安心しました。雪が降ると、ぼくのお父さんは時々外に出て、雪かきをします。うちの前の道は日陰になっていて、積もった時にちゃんと寄せておかないと、すぐに踏み固められて凍ってしまい、車を出す時とか、歩いて家に入る時に大変なのです。

 土曜日の昨日は、午後に家でボケッとWiiU(スプラトゥーンを一人でやります。ときどき弟と対戦します)をしていると、お母さんに「暇だったら雪かきしてよ」と言われて、ちりとりの大きくなったような道具を渡されました。ぼくは「めんどくさいなあ」と言いながら、寒かったので、フリースを着て、 手ぶくろ(毛糸のもの)をはめて、外に出ました。

 家の外では、大粒の雪がまだどんどん降っていました。雪は15センチくらい積もっていました。外は、なんとも言えない、アスファルトの冷えたようなにおいがしました。外の道路は、車の出入りはほとんどありません。家の中から、外の道路へ抜ける道に、足あとが何列かついています。たぶん、お母さんがつけたんだろうなと思いました。外の道路は、車のタイヤのあとはいくつかありますが、その茶色いあとの上にも、薄く雪が積もっていました。

 ぼくはまず、家の玄関から、外の道路までの道をつくりました。家から道路までは5メートルくらいあります。雪は重くて、キシキシと音を立てます。それを跳ね上げようとして上に持ち上げたら、雪は山なりに飛んで、ぼくの体にかかりました。それを振り落としながら、雪をはじによせていきます。

 つけている手袋は毛糸のものなので、すぐに雪がとけてしみだしてきて、手はすぐに冷たくなります。また、靴の中にも雪が入り込んで、靴下はすぐにびしょぬれになります。道路に積もっている雪を全部かいてしまおうと思いましたが、何度か、その大きなちりとりみたいなものをソリのようにして道路のまわりの雪を分けていたら、すぐにつかれてしまい、それにこんなにたくさんの雪をぜんぶどかせるわけがないと思ったので、道路のみぞ(中はチョロチョロと水が流れています)に雪をつめたり、雪玉(玉というより、卵焼きみたいになります)を作ったりして遊びました。

 そうしたら、外がだんだん暗くなってきました。また、手袋も濡れっぱなしで、手の感覚がなくなるくらい寒くなってきました。ぼくは、道路の真ん中に仰向けに寝転んで、空を見ました。空は暗くてくもっていて、大きな雪がその日の光をさえぎって、灰色になって自分の顔につもっていきます。ぼくは口を開けてその雪を食べながら、このままずっとこうしていたら、このまま自分は雪に埋まってしまうのかな、それとも顔の部分だけは暖かいから積もらないのかな、と考えました。

 だんだん日が暮れてきたので、結局ぼくは雪から抜け出して、自分のいた場所が自分の大の字になっていることを確認してから、ちりとりみたいなものを家のドアの横に立てかけて、家の中に入りました。ぼくは洗面所でフリースを脱いで手袋と靴下を洗濯機に入れました。手と足は真っ赤になって、家の中が暖かいのでジンジンします。お湯をだして手を洗うと、手がまだ冷たいので、「あちっ」というほど、とても熱く感じました。

 リビングでは、お母さんが夕食のしたくをしていました。「これ食べていいよ」と、バターロールの袋が置いてあったので、それを開けて食べていると、作業着姿のお父さんが帰ってきました。鼻を赤くして、メガネに水滴がついてくもっています「外の雪かきやったんだよ」というと、「えらいじゃん」と言っていました。ぼくはそのまま疲れてリビングに敷いてある布団で寝てしまい、7時過ぎくらいに起きて、テレビを見ながら家族でカレーを食べました。

 つかれた1日でした。


 おわり。
 

 

2016年1月17日日曜日

2016ねん1がつ17にち 青い鉢植えとカーキ色の鉢植え


最近はとても寒いです。いつのまにかお正月も過ぎ、3学期が始まりました。毎朝、まだ暗いうちに起き、電気のついているリビングで朝ごはんを食べます。服も、半そでではいられません。白シャツ、長そでTシャツ、フリースと3枚着込みます。お母さんが寒いからと買ったネックウォーマーを首に付けて、ランドセルを背負ってでかけます。
 
 昔の小学生のランドセルは、男の子は黒、女の子は赤しかなかったそうです。でも、今の小学生は、みんなカラフルな色のランドセルです。ぼくは、黒のベースに青のストライプの入ったランドセルを背負っているし、ハシタカくんは、緑色のランドセルでした。いま、黒や赤単色のランドセルを背負っていたら、みんなから仲間はずれにされてしまいそうです。

 色とりどりのランドセルを見ながら登校すると、1時間目の国語の授業で、タニシ先生がこんなことを言いだしました。「君たちは、『まえのほうがよかったなあ』と思うことがあると思います。たとえば君たちは、春に、鉢植えでアサガオを育てるよね。君たちが5年生の時まで、この小学校では、えーと、とある学玩メーカーの鉢植えを使っていました。あの空色のプラスチック製の鉢植えね。でも、今年からはマミヤの鉢植えに変わっちゃいました。カーキ色の鉢植えにね。あ、みんなカーキ色ってみんなわかる?なんだろうなあ、兵隊さんの服の色というか、みなさんのなかに、迷彩柄の服を着ている子はいないかな?そんな感じの色だよ」

 結局、カーキ色がどんな色なのかはよくわかりませんでした。前の席の女の子は、タニシ先生のお話をむしして教科書になにか落書きをして遊んでいます。
 
 「ま、先生はほかの先生とそれほど仲良くないから、鉢植えを、えーと」先生は指を折りながらつづけます。「だれが、いつ、どのようにして、決定しているのかは、知らないんだよね」

 タニシ先生は他の先生と仲良くないなんて、なんで自分からそんなかわいそうなことを言うのだろうと思いました。というか、鉢植えのことなんて、べつにタニシ先生はいちいち気にしなくてもいいじゃないかとも思いました。

 ところで、ぼくは、4年生の時に、生徒の間である噂が広まったことを思い出しました。アサガオの鉢植えの土の中に1円玉を入れると、お金のなる木が生えてくるというのです。実際に、当時の3年生が1円玉を家から10枚持ってきて土に埋め、マジックペンで大きく「お金のなる木」と書いたのです。その鉢植えは、なんだか神社のご神体のような扱いを受けて、まわりにお賽銭がいくらか散らばっていたみたいですが、結局ただのアサガオしか生えてこなかったそうです。

 タニシ先生は続けます。「もしかしたら、君たちの中には、鉢植えの形が変わってしまったことに不満を覚える人がいるかもしれないんだよね。でもさ、マミヤ製のものに変わったのには理由があるのさ。マミヤは、みんなの使う教材一式を扱っていて、鉢植え、肥料入りの土、種をみんな用意しているんだよね。でも、SAMYO製の鉢植えだと、土や種は別に買わなきゃならないから、効率がわるい。価格もマミヤのが安いしね。だから、つまり、物事が変わるには変わるなりの理由があるし、あまり過去にとらわれちゃいけないってことさ」

 タニシ先生の言いたいことはなんとなくわかったような気がします。でもぼくは、昔の鉢植えのほうが思い出が多いし、デザインが良いと思うので、好きだなと思います。でも、タニシ先生は、新しい方が好きなのかな?

 まあいいや。


 おわり。